一厘のドラゴン(いちりんのどらごん) 1
水平線のはるか彼方、じわりと光が溢れてくる。墨を流したような海と空が、ゆっくりと群青色に染まっていく。どこに身を潜めていたのだろう。巨人のような白い雲があちこちにそびえ立つ。今日も暑くなりそうだな。海岸の大岩にあぐらをかいて、黒髪の少年はぼんやりと思った。
彼は夜明けの空を見るのが好きだった。鉄杭島(てっくいじま)を無限に囲う青い海の果てから、朝日が迎えに来るのを心から待ちわびていた。いつも眠い目をこすりながら家から這い出ては、どうにかして海岸までやってくると、波打ち際で力尽きたように座りこむ。落ちつく場所は毎日ちがっていて、今日は四角い大岩の上だった。
そっと頬をなでているのは夜風だろうか。彼は最後に益体もないことを思い浮かべた。満足した彼は岩肌に寝そべって、夢のつづきを追いかける。
少年の名前はオゼと言った。
この島に残る唯一の人間にして、この世界に生きる最後の竜だった。